マイクロバイオームの意味

マイクロバイオーム【microbiome】
 
<用語解説>
マイクロバイオームとは
マイクロバイオームとは、特定の場所にコロニーを形成して常在する細菌をはじめとした微生物の集まりのこと。マイクロバイオームは、細菌や真菌、ウィルスなどの微生物が形成する特徴的な集まりであり、常在する部位によって微生物の種類や構成比が異なる複雑な集合体。

細菌叢や微生物叢、常在菌叢などとも呼ばれる。人体にも様々な場所に存在し、ヒトマイクロバイオームと呼ばれる。皮膚に存在するものはスキンマイクロバイオームとも呼ばれる。マイクロビオータも同義で使われているが、厳密には指しているものが異なる。
皮膚とマイクロバイオーム
〇皮膚マイクロバイオームの役割
マイクロバイオームのほとんどは細菌であり、皮膚でも様々な細菌が常に存在しています。腸内細菌のバランスが健康を左右することは広く知られていますが、皮膚のマイクロバイオームに関しても、菌の種類や数量、その多様性やバランスの状態が皮膚の健康を左右することがわかってきました。

皮膚マイクロバイオームの役割に関しては、まだ明らかになっていないことばかりですが、病原体などの好ましくない微生物に対する防御作用やバリア機能のサポート、肌老化への関与など、肌における役割は大きいとされています。湿疹やにきび、フケなどは皮膚のマイクロバイオームのバランスが崩れていることを示し、このバランスの乱れは次第に大きくなり、乾燥肌、敏感肌、アレルギーなどの状態の中には、皮膚マイクロバイオームのバランスの崩れに起因するケースもあると考えられています。

細菌それぞれには常在に適した環境があるため、マイクロバイオームの組成は存在する部位に応じて異なります。顔の中でも部位によって違います。体温、皮膚の厚さ、しわや境目の量とその大きさ・深さ、皮膚のpH、毛包や皮脂腺・汗腺の密度などに影響されます。このような部位の特性だけでなく、そもそもマイクロバイオーム自体が人によってまちまちで、性別や年齢、季節、民族性、住んでいる場所などによって異なり、同じ人でも部位により時期によって変化し、さらには心理状況などにも影響されると考えられます。

〇皮膚マイクロバイオームのイメージ
皮膚のマイクロバイオームに関しては、池に例えると、その関係性がわかりやすいです。水面で泳ぐカモ、石の上で餌を狙うカエル、花々にとまりながら飛ぶトンボ、水中を泳ぐ魚、池の底から生えた水草、底の泥の中で活動し苔を食べる小さな生き物、それら全てのバランスが取れていると、池の全ての生き物が繁栄し、池の状態も良くなります。しかし例えば、池の表面に藻が多すぎて日光を遮ったり、カモの餌となる生き物が足りなかったりなど、アンバランスな状態になると池の生態系が崩れ、全ての生き物にも池にも影響します。皮膚でもこの池と同じようなことが起きるのです。

〇皮膚マイクロバイオームの呼称
マイクロバイオームの中でも皮膚に常在するものは、皮膚マイクロバイオーム、スキンマイクロバイオームと呼ばれます。他にも皮膚細菌叢、皮膚微生物叢、皮膚常在菌叢、スキンフローラ(フローラは使われなくなってきました)などとも呼ばれます。化粧品や美容の内容における場合は、単にマイクロバイオームと表現していても、皮膚のマイクロバイオーム(スキンマイクロバイオーム)を通常指しています。

〇皮膚マイクロバイオームの主な細菌
皮膚マイクロバイオームにおいて注目されるのは、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、アクネ菌です。表皮ブドウ球菌は善玉菌、黄色ブドウ球菌は悪玉菌、アクネ菌は日和見菌と呼ばれます。

特に表皮ブドウ球菌は、マイクロバイオームが発揮する複数の有益な効果に貢献しているとされています。低pHの維持や、抗菌物質を分泌することによる黄色ブドウ球菌の集団形成阻害、グリセリンなどの代謝産物による皮膚水分量の改善といった肌にとって有益なマイクロバイオームによる効果は、表皮ブドウ球菌に起因すると考えられています。

黄色ブドウ球菌は、常在菌ではなく、一時的あるいは特殊な状態下でのみ存在する通過菌です。多くは、通過菌がトラブルを起こしますが、常在菌でもトラブルを発症することがあり、健康な肌からもよく検出されます。一般的には、黄色ブドウ球菌などの通過菌も常在菌として、つまりマイクロバイオームを組成する菌として扱われます。ただし狭義では異なる場合もあります。
皮膚マイクロバイオームと化粧品業界
〇化粧品メーカーでは
皮膚のマイクロバイオームに関する研究は、まだ始まったばかりと言えますが、化粧品業界でも、世界的に研究や議論がすすめられています。日本でもマイクロバイオームは注目され、肌のマイクロバイオームの多様性が大きいほど肌がより健康になる、敏感肌は細菌叢の多様性が低い、表皮ブドウ球菌の存在比率が高いなど、化粧品メーカーの研究で示されています。

現代社会において、マイクロバイオームの多様性はかつてに比べ半減しているとも言われます。原因には多くの要素がありますが、毎日のシャワーや入浴、現代の衛生習慣、抗生物質の使用なども関係していると考えられます。化粧品自体が品質保持のため防腐防黴対策を取っていることが、皮膚のマイクロバイオームを妨害してしている可能性もあります。そこで、有益な細菌の損失を防いだり、乱れたバランスを回復促進するなどして、皮膚のマイクロバイオームのバランスを良好に保つアプローチの開発や、プレバイオティクス成分の開発などが進められています。既に肌のマイクロバイオームに配慮した製品が販売されていますが、まだまだ進化はこれからと考えられます。

将来的に、品質基準や微生物基準を鑑みながらも、化粧品にはマイクロバイオームへの配慮が必須になるとも言われています。皮膚のマイクロバイオームケアというコンセプトを取り入れた化粧品がますます増え、個人に合わせた特定の細菌ニーズへの対応や、スキンケア製品のパーソナライズ化へと進む可能性もあるでしょう。

〇プレバイオティクスとプロバイオティクス
肌にとって有益な表皮ブドウ球菌の増殖を促進しながら、黄色ブドウ球菌は増殖させないという働きを持つ成分をプレバイオティクス成分と呼ぶことがあります。しかし、「プレバイオティクス」は、本来は食品業界で用いられる言葉です。皮膚のマイクロバイオームに関する研究の歴史が浅い現在、用語の定義がまだなされておらず、化粧品業界では栄養学や食品業界で使われている用語を多く用いています。

「プレバイオティクス」は、腸内環境を整えることで宿主の健康に有益な働きをする食品成分であり、よく知られるオリゴ糖のように、腸内細菌の餌となることで健康に有益な腸内の菌を増やす助けとなる栄養素です。そして、この栄養素が生きた微生物の場合、「プロバイオティクス」といいます。

プロバイオフィクスは有益な菌そのものであり、適切な量を摂取するとビフィズス菌のように宿主の健康上の利益をもたらす生きた菌です。多くの化粧品には水が含まれており、細菌増殖や腐敗を防ぐため防腐剤も使用されます。したがって、化粧品への生きた細菌の配合は、製品の品質や微生物の生存性など様々な課題があります。(海外に生きた菌を配合した製品あり)
マイクロバイオームについて
〇マイクロバイオームの定義
マイクロバイオームに関しては、過去約30年の間に多くの定義が発表されています。よく引用される定義もありますが、それでも合意された共通の定義や基準はまだありません。

〇細胞の数と微生物の数
私達、人の細胞数は約60兆個とも、最近では約37兆個とも言われます。そして、この細胞数の1.3倍(10倍とも言われる)、質量にすると体重の1%~3%程度の微生物が私達の体に生息していると言われます。体細胞と同数あるいはそれ以上の微生物が存在していることになります。

〇本格的な研究は2000年代に入ってから
微生物の研究は、病原菌の研究に焦点が当てられ、技術も不十分だったため、人体に有益な微生物には着目することはなく、微生物は排除すべき有害物として長年考えられていました。新しい技術や機器の開発にともない研究は進歩してきましたが、マイクロバイオームが私達の健康を保つ上で重要な役割を担っていることが分かったのは最近のことです。

2000年代半ばの革新的な技術の登場により、分離や培養をせずともそれまで存在がわからなかった微生物も含め、調べられるようになりました。その研究手法の革新によって、マイクロバイオームの研究は飛躍的に進みました。マイクロバイオームの研究が本格的に始まってからまだ15年程度ですが、現在は、マイクロバイオームがなければ地球上の生物は生きていかれず、私達にとってはマイクロバイオームは「最後の器官」であるとさえ言われ、大きな可能性が期待される分野の一つとなっています。

〇フローラという呼び方
生物相(biota ビオタ)が、植物相(flora フローラ)と動物相(fauna ファウナ)に二分されていた時代は、微生物は植物相に位置づけ、フローラと呼び、日本語(漢字)では「叢」をあてていました。現在は、Microbiota(マイクロバイオータ 微生物相)、Fauna(ファウナ 動物相)、Flora(フローラ 植物相)は並列的存在で、論文などを見てもフローラからマイクロバイオータに移行していることがうかがえます。

皮膚に関しても、以前は肌フローラ、スキンフローラと呼んでいましたが、現在は「フローラ」は使われなくなってきました。しかし、マイクロバイオータと呼んでも、漢字表記では微生物叢というように「叢」の漢字があてられるのが通常ですが、これも「相」に移行していくかもしれません。

〇マイクロバイオームとマイクロバイオータ
マイクロバイオーム(microbiome)とマイクロバイオータ(microbiota)は、多くのケースで同義的に使用されています。一般的に、マイクロバイオータ(microbiota)とは、マイクロバイオームを構成する微生物群を指します。つまり微生物そのものです。英語の読み方の違いから、「マイクロビオータ」と表現されることもあります。

一方、マイクロバイオーム(microbiome)は微生物そのものだけではありません。マイクロバイオームは、マイクロバイオータとその遺伝物質・遺伝情報を合わせたものを指しますが、代謝物やシグナル分子、常在場所の環境条件、宿主との相互作用など微生物が担う働きまで含むという考えと、遺伝情報のみを含むという考えがあります。

コスメコンシェルジュからひとこと

私達は、微生物に住む場所を提供し、代わりに微生物に守ってもらっているのですね。自分の細胞より多い数のマイクロバイオームに囲まれ、常に微生物達と一緒に行動している私達。以前は除去すべきものというイメージだった細菌が、今では皮膚が健康な状態ならば、基本的に無害、それどころか有益であり、私達の皮膚の営みをつかさどる存在。私達が、マイクロバイオームの中で生かされていると言われるのも頷けます。

特に、外界に接している皮膚は、怪我や病原体に対して最初の防御線と言われますが、そこで第一線として頑張ってくれているのは、皮膚の細胞ではなくマイクロバイオームなのでしょうか。マイクロバイオームに働きかけることができれば、肌の健康を維持できるばかりでなく、従来とは逆の発想で皮膚の炎症も予防・改善できると考えられるでしょうか。ステロイドや抗生物質に代わる治療が実現しそうです。皮膚のマイクロバイオームは美容以上の意義がありますね。

ではどの菌がいいの?と言われると、そう単純なことではないようです。マイクロバイオームを構成するどの菌が良い・悪いというのではなく、大切なのはそのバランス。しかも人によって最適なバランス状態が異なるため、他人のマイクロバイオームを解析し、コピーできたとしても、まったく同じ反応が出るというわけでもなさそうです。また、善玉菌と言われる表皮ブドウ球菌も条件によっては病原体として分類されることもあります。

化粧品ではまだまだこれからの分野のようですが、マイクロバイオームフレンドリーの製品は増えていくでしょうし、微生物に着目した製品が増えるに伴い、製品の微生物試験やその基準も新しく変わっていくかもしれません。個人的には、皮膚のマイクロバイオームをきちんとお世話しながら、つまり常在菌が好みそうな環境を整えながら、過ごすとしましょうか。
2020年9月
参考:株式会社資生堂プレスリリース
「資生堂、敏感肌では皮膚常在菌叢の多様性が低いことを発見 -新規プレバイオティクス成分を配合した基剤が肌の水分量やキメを改善-」(2020年8月19日)
参考:日本ロレアル株式会社公式サイト 学術情報
「アトピー性皮膚炎と皮膚の常在菌叢(マイクロバイオーム)について」(2019年2月12日)
参考:株式会社LSIメディエンス 第16回メディエンスFORUM 2018 プレシジョン・メディシンの将来<臨床検査の多様化から精密医療へ>
講演1「メタゲノム情報から読み解く腸内フローラの生態と疾患との関係」
資料「ヒトマイクロバイオーム研究~細菌叢メタゲノムからヒトの健康と病気を読み解く~」(2018年7月14日)
参考:オーストラリア クイーンズランド州政府公式サイト「The Skin Microbiome」
皮膚を池に例えた説明がわかりやすいです。(英語)
参考:MyMicrobiome公式サイト(英語)
微生物学者のクリスティン博士(Kristin Neumann, PhD)が創設。情報発信およびマイクロバイオーム製品の基準化、認定試験など実施しています。
参考:「Microbiome definition re-visited: old concepts and new challenges」(2020年6月30日)
BMC(BioMed Central)公式サイトよりオープンアクセスジャーナル。
参考:「Revealing the secret life of skin ‐with the microbiome you never walk alone」(2019年11月19日)
Wiley Online Library公式サイトよりオープンアクセスジャーナル。
参考:「The human skin microbiome」(2018年1月15日)
Nature Research公式サイトよりオープンアクセスジャーナル。
参考:「Microbiome in healthy skin, update for dermatologists」(2016年10月13日)
Wiley Online Library公式サイトよりオープンアクセスジャーナル。
用語のカテゴリー

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